大学生活を通常の倍の期間をかけながら、ようやく終えかけていた1月頃、周囲は内定を得た人ばかりのなか就職活動に全く身が入らず、バイトに精を出していた。そんなある日、たまたま大学の就職コーナーで求人情報を何となく見ていたら、同大学を9年ほど前に卒業した先輩が経営する会社の募集に目を惹かれて応募してみた。結果的に、それが学生生活最初で最後の就職活動になった。

一般的に就職活動は、その後の人生を大きく左右するものであり、応募するかどうかの段階で、どんな業界のどんな業種の会社で、具体的にどのような物やサービスを提供していて、どのような仕事をするのか、何を身につけておくべきなのかなどなど、つぶさに研究するはずです。ところが、そのような取り組みを一切行わず、何も調べず、何も知らない状態で無謀な応募をしたのです。何故そうしたのか、約30年を経た今となっては全く思い出せない。

勿論、先方はそんな無謀な応募とは露知らず、程なく面接の通知が届いた。常識的には、面接に行く前に何らかの準備をするはずですが、この期に及んでも一切対策を行うことなく、会社研究をすることもなく、ぶっつけ本番の出たとこ勝負で、何も考えずに出向いた。私は根っからの人見知りで、人前どころか友人や知人、家族とも会話をすることを億劫がる、コミュ力が全くない人間です。ですから、何らかの準備や対策をしておかないと場がもたないはずにも拘らず、無防備なままで、当日を迎えた。

どんなやりとりをしたかは記憶にないものの、あっけなく就職が決まったのだ。後で聞くと、先方は、私が面接時に着て行ったコートをキチンと畳んだ状態で持参したところを見て、几帳面な性格と判断し、見た目は真面目そうに見える第一印象とにより、その場で採用を決めたそうだ。その後、入社説明会みたいな2度目の会社訪問をした際、近所のスナックに誘われ、社長と役員とでカラオケを歌う羽目となり、何故か選曲した「45歳の地図」(爆風スランプ)により、第一印象とは全く異なる二面性を暴露したものの、後の祭りと腹を括られたのかは定かでないが、サラリーマン人生の幕を開けたのだ。

By hb