早朝に会社を出発し先輩を途中で拾って、片道2~3時間かかる田舎の役場回りをして、夕方に出先の給食室での募集を終えてから会社に戻ると帰社が19~20時となり、それから事務処理をしたり何だかんだしていると、終電になることもよくあったが、若さの所以か平気に過ごしていた気がする。余り深く考えなかったのか、必死だったのか、社会人とはこんなものと思っていたのかは全く記憶にない。記憶にあるのは、先輩が夕方最後の出先の仕事を終えて会社に向かう前に、必ずロング缶のスーパードライを2~3本買い込んで、助手席で一人吞みながら陽気に振る舞っていたことだ。

魔法使いとは言え、毎日全員から契約を頂けるわけではなく、うまくいかないときもあるうえ、補助の私の頑固さや成長スピードの遅さに呆れ、素面ではやってられなかったのか、ただ単にアルコール好きだったのかはわからないが、深刻な顔で反省会をしたり、注意を受けながら運転して帰るよりは遥かにマシだったと思う。実際には注意も受けていたかも知れないが、陽気だったという記憶の方だけが残っている点においては、聞き流していたのか、ポジティブ思考の方が勝っていたのだろう。

人前で話すのが苦手どころか、普段から家族や友人、知人と居ても自分から話すことは本当に少なく、聞き役すらもチャンと聞くことが出来ず、うわの空で他のことを考えがちな自分が、まさか営業の仕事をする羽目になっても、断る発想もなく、散々背中を見せられるうちに、出来そうな気がしていたのかも知れない。魔法使いのような話し上手の先輩に付いていくうちに、言葉や表現力は人の心を動かすことを知るようになり、自分にも出来るようになれるといいなあと思っていたのかも知れない。

ただ、先輩が居るとつい甘えてしまう自分を変えるには、一人で営業に出向くのが一番効果的だと考えたのだ。教えてもらって身につくこともあるかも知れないが、「習うより慣れよ」という言葉もあるように、早く失敗を重ね、数をこなすうちに、段々慣れてくるはずだと考えたのだ。そこで、一人で団体募集をさせて欲しいと会社に申し出て了承を得て、全てを自分一人でやってみることにしたのだ。役場窓口での折衝、庁舎内での一本釣り、出先へのアポイント、説明会の実施など、最初はドキドキしながら回るも、数をこなすうちに、徐々に慣れていった。そして、ある時の説明会で一人で一気に20口ほどの成果を挙げることができた時には、本当に嬉しかったし、ようやく社会人として仕事の醍醐味や会社に貢献できた喜びを感じることができたのだ。

By hb

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