「君が?」と怪訝そうに答えられた瞬間、自分ではない事をサトッた。マスターのお目当てはもう一人の占い師さんの方だったのだ。いつも明るく、さすがに仕事柄もあり人の話を引き出すのが上手だし、話す時は人を楽しませる事も出来る。マスターにはピッタリだ。一方の私は、真逆なのだ。人見知りもあり笑顔一つ満足に他人に向けることすら苦手というか、億劫に感じるのだ。ましてや人の話に相槌を打ったり、質問を挟みながら会話を広げたり、自己開示したりがほぼ出来ないのだ。だから、今思えば当然の反応だったと思うし、よく自分の現状を見つめることなく切り出そうと思ったものだ。

とは言え、切り出そうと思った時点でそれなりの可能性に賭けていたのだと思うが、思い違いも甚だしかった。後日、占い師さんに事の顛末を簡単に報告すると、かなり驚かれた。まさか私がそんな無謀な事をするとは思っていなかったようだし、やはり誰が見ても私はそんなキャラではないと思われているのがよくわかった出来事だった。その後、当然そのお店に足が向くことはなくなった。それでも、曖昧な返事をされるよりは、全く可能性がない反応をして下さった為、キッパリと諦める事ができた。

その後も自らの独立を具体化する事を先送りし続けて、何となく日々の忙しさに流されていた。ただ、忙しい割には請求書の作成も担っていたが、どう考えても会社から請求する額と、会社に届く請求される額や人件費を始めとする各種経費の支払額とのバランスが一向に改善しないのだ。にも拘らず、人は採用するし社用車も調達するしで、どこにそんなお金があるのかと不思議というより、不安になるような経営状況だった。

次第にその噂が広まったのか、ツケで支払っていた飲食店のツケがきかなくなったり、社用車の契約先の相手が乗り込んできて、本当に支払いができるのかを問い詰めに来たり、徐々に後回しにしている支払先からの催促が過熱してきたのだ。金の切れ目が縁の切れ目とはよく言うが、まさに金が切れそうになるとの噂は直ぐに広まるのか、取引先との関係も悪化するばかりだった。そして一向に改善の兆しがないままに、社長は余り会社に来なくなったのだ。

By hb

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