DM営業は大量の印刷物を用意しなければならず、準備は大変だった。長形3号(A4三つ折り定型サイズ)の封筒にパンフレットと案内文、希望書、返信用封筒を封入するのだが、1回の発送が3千件~5千件ほどにもなるのだ。返信をもらうための希望書に必要事項を印刷するのに、社長の知り合いの会社の営業時間外に出向いて印刷させていただく必要があったり、全ての書類を揃えて封入したりが大変だったが、唯一の救いは「折り機」があった事だ。手折りするとなるととんでもない量なので、腱鞘炎になるはずのところ、折り機にかかるとA3二つ折りのパンフレットでさえ、瞬く間にA4三つ折りにしてくれるのには本当に感激した。文明の利器を発明した人には感謝しかない。

満杯のDMを大きめの紙袋に入れるが、それが10個以上になる事もしばしばだったが、それを配布区域の郵便局の本局へ持ち込む必要があるのだ。それによって当時通常であれば90円になるはずのところが55円になるのだ。3千件だと通常27万円のところが16万5千円になるので10万5千円も郵便料金が変わるので、使わない手はないのだ。とは言え、郵便局に事前にアポイントを入れる訳ではないので、ある日いきなり大量のDMを持ち込むと数えるだけでも大変なので、かなり嫌がられていたはずだが、こればかりは致し方ないのだ。

よくDMの世界では「千三つ」と言われ、1,000件送って反応があるのは3件程度、つまり0.3%の確率という意味だ。一般的には大体ココに近い数字になるようで、3千から5千件送ると約10~15件は反応があり、そこから更に、契約に至るケースと契約できないケース、契約しないケースに分かれるが、不思議なほど、契約に至るケースがほとんどだったのだ。前回記したように、事前の電話でほぼクロージングして、申込書も機械で打ち込んでいくので、訪問時は署名と押印、健康告知、口座確認、必要な場合のみ初回保険料のお預かりとなるので、今では有り得ない事だが、ほとんど保険の話をせずに終わってしまう事もあったほどだ。

ですからつい配達員になった感覚にもなるのだが、そのような日々を続けていたある日、果たして保険営業の仕事とはそういうもので良いのだろうかという疑問が湧いてきたのだ。元をたどると保険というものは助け合いの精神に基づいて、万一の際に備え多くの方々がお金を出し合い、万一のリスクを負ってしまった方々の経済的な打撃を和らげるためのものだ。と言っても、日本においては国民皆保険制度により公的保障が充実しているため、それほど多額の保障を民間商品で自主的に用意する必要もないのだ。ところが、民間の保険営業では全てのリスクを自分たちの商品でカバーしようと競争し合っている状態だったのだ。勿論、その一端を担う仕事である以上、全面的に批判できる側ではなかったが、特に高齢者世帯中心のDM営業をしていると、ただお客様に言われるがままご記入ご捺印をいただくだけなら、真の営業にはならない気がしてきたのだ。

By hb

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