結局、お互いに遠慮し合って営業スタイルのみならず、言いたいことを言うこともできず、上手く噛み合わずにいたのだ。ちょっと上手く行かないことがあると、その先の行動へのモチベーションが沸いて来ないように見えただけだった。それは本人だけではなく、私もそうだったのだ。中々結果を出してもらえないことを本人の問題と捉えるばかりで、如何にそこから抜け出すためのサポートやアドバイス、具体的な行動のあり方を懇切丁寧に説明することから逃げていたのだ。逃げていたというより、自分にはその答えを見い出せていなかったのだ。迷ってばかりいて、行動する前から躊躇していたのだ。

ひとり社長のひとり社員の会社なので、会社に居る間は社員の営業活動への仕込みの様子が目に入って来るのだが、自らも営業活動へ出かけるため、その間は社員がひとりになるのは仕方のないことだ。私が出かける際は何となく嬉しそうな雰囲気が漏れ出すのだが、その気持ちも理解できるし普通のことだとも思ったし、自分もかつてはそうだったと納得していた。出来る事ならそんな気を遣わせたくなかったし、それどころではない程度に顧客対応が必要な状況をつくりたいと思っていた。

そんなある日、私自身が発熱してしまい出社が出来ない日があったのだ。久しぶりの高熱で頭はガンガンし体もだるく、起き上がるのも大変な状況で朝からずっと自宅で寝ておくことにする旨連絡し、初めて1日不在となったのだ。ところが、夕方頃にどうしても書類を届けなければならない仕事を断り切れず、自宅から直接出かける羽目になったのだ。車を走らせて丁度会社の前を通るルートだったのだが、その時に驚くべき光景を目にすることになってしまったのだ。会社が入居するビルの入り口から、社員とその彼氏が一緒になって出て来るところだったのだ。まさか目の前の二車線ある道路を通り過ぎていく車を気にすることはなく、仲良さそうに寄り添って帰って行くところだったのだ。

わずか1分、いや30秒遅くても早くても目にすることはなかったはずの光景に出くわし、それはそれで奇跡的な出来事というか、天網恢恢疎にして漏らさず的な現象に驚くばかりだった。社長が1日不在の小さな会社に、彼女と彼氏が終業時間まで共に過ごしていたことだけは確かだったのだ。流石にこの光景を看過するようでは社長失格の烙印を付けられる、と言っても私以外の誰にも関係のないことではあるが、ある意味一つの決断のキッカケを提供してもらえた気がしたのだ。勿論、運転中だったこともあり証拠写真を撮った訳でもなかったので、目にした光景を持ち出したところで野暮なこと。結果的に解雇をするなら相手が去り易い理由を伝えることにしたのだ。

By hb

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