移転が決まったことで、業務には直接関係しない細々とした移転にまつわる準備がたくさん出て来た。広さが3倍程になるので、応接スペースを設けたり、収納ロッカーを増やしたり、電話の増設やついでにパソコンも新調したり、路面店舗ということもあり、玄関の外に看板を設置したり、入口付近に受付カウンターやパンフレットスタンドを設置したり、何だかんだと手間とお金がかかった。ただ元来、このような作業的なことは全く苦にならないどころか、好きな方なので、業務をしているよりも楽しいと感じてしまうのだ。
問題は、路面店舗に事務所を開き、看板まで出しておきながら、一人会社の一人社長、一人営業、一人事務員であることだった。わざわざ路面に事務所を出さなくても、既存のお客様との関係を丁寧にかつ良好に維持していく分には支障がなかったのだ。もし看板を見て飛び込みで入って来られたとしても、ケースバイケースではあるが、電話中のこともあれば、食事中の可能性もあるし、用を足している時などにはどうにもならないのだ。また、そもそも法人顧客の場合は100%コチラから出向くようにしていたので外に出掛けることが多く、不在が多いなら余り意味もないのではないかなど、アレコレ考えてみると、目立つ場所で営業するのには向いていなかったのではないかと、後になって思い始めることになった。
ところが、実際に移転して営業をしてみましたが、杞憂だった。意外でもなかったのだ。オフィス街でもない住宅街にあるビルの路面店舗のため、日常生活に必要な食料品や飲食店、日用品を扱っている訳ではないので、ほとんど見向きもされなかったのだ。強いて言えば、FP業務は全ての人に関係するのだが、まだ時代はお金を払ってまでFPに相談しようと思う方は少数派だったのだ。なので、飛び込みで入って来られるのは、逆にコチラに営業を掛けて来られる方々ばかりで、それはそれで面倒な対応を増やす結果となってしまった。
また、前の通りを散歩する方がトイレを貸して欲しいと言って入ってきたり、雨の日に事務所玄関前で雨宿りしている人がいたので傘を貸したりすることもあった。ある時、隣の隣にクリーニング屋さんが入っていたのだが、玄関のガラス扉を破壊されて泥棒に入られていたり、ビルの上に住んでいる少し危険な香りのする方が何度か尋ねて来ていたのを何とか交わしていたら、結局クリーニング屋さんの方にクレームを付け出してもめごとを起こしていたり、何かと路面店舗では落ち着いて仕事がし難い面があるものだということを痛感した。