法律を取り扱う国家資格者として、最も心を擦り減らすのが役所の調査だ。当然ながら常に適正な処理を心掛けており、委託されている意味としては、会社の代わりにキチンと処理を行っているのが前提のため、役所の調査があろうが何の後ろめたさもなく、堂々としていられる状態を保つことに意識はしているものだ。とは言え、何の経験もなくこの業界に飛び込んで、初めての調査に立ち会う時には、一体何を知るためにどの書類のどこを見て、何を問題点としようとしているのかなど、ハラハラドキドキ、不安だらけだった。
ただ、定期調査については事前に通知書が届き、いつどこに何を用意していくのかが記載されていて、ある程度時間的に余裕があるため、早めに書類をお預かりして問題がないかどうかをチェックしておくことができるのだ。ですから、指摘されそうなところがあれば事前にどのように説明し、どう対処すべきかを把握したうえで、指摘される可能性を事業主にも予めご理解いただいたうえで臨むことができるのだ。それでも、経験が少ないうちは、そこまで細かいところを見るのかと勉強不足を痛感することもあった。調査を担当する方によってかなり左右される面もあったが、概ね、社労士が立ち会うケースにおいては、手厳しい措置をとられることはほとんどなく、立場へのご理解をいただける場面も多かったのは本当に助かった。
定期調査については、何度か経験をするとほぼ見るポイントが分かってくるので、徐々にハラハラドキドキ感は薄れていったが、問題は、予告なく急に来られる調査が入る場合だ。急に来られるケースと言うのは、ほぼ従業員や元従業員が役所に何らかの告げ口をしたことが発端となっていて、場合によっては様々な証拠書類や情報を持っているため、かなり手厳しい指摘が前提で始まるのだ。勿論、即日で対応を強制されるワケではなく、都合が悪ければ一旦出直してもらうように相談は可能ではあるが、逆に日にちを稼ごうとしていると思われるのも癪なので、私の場合は、急な調査が入った場合は、可能な限り予定を調整してでも即日で対応する方を選んだ。
逃げの姿勢を見せたところで、先方は既に何らかの情報をもって臨んできているので、確かに心の中ではハラハラドキドキしてはいるものの、表向きだけでも包み隠さず堂々と対応することで、徐々に形勢を有利に運ぼうという思惑を持って、矢面に立つことを心掛けた。特に助成金が絡む調査においては、支給不支給の判断への影響は元より、不正受給と判断されてしまうと返還命令とともに一定期間の申請ができなくなるどころか、企業名や社労士名が公開されるケースもあるため、緊張感や緊迫感、危機感など、顔はできるだけ平静を装いながらも、気持ちは真剣勝負そのものだった。勿論、不正受給を自分が主導していたとするならそんな勝負に挑むまでもないのだが、適正に処理しているという自信をもって取り組んできた以上は、全ての質問や指摘事項を跳ね返していくしかないのだ。