ある時、雇用調整助成金の申請を毎月していた会社に、いきなり労働局の職員2名が訪ねて来られた事があった。雇用調整助成金とは、会社の経済的な事情で雇用の継続が厳しい状況にあるなかにおいて、社員の雇用の維持を図るために、一時的に休業や教育訓練、出向などをおこなう事業主に、社員の失業予防や雇用の安定を図ることを目的とした助成金です。当時は、事前に休業する日について計画届というものを提出し、計画に基づき休業をさせたうえで休業手当を支給し、支給した休業手当の8~9割を申請に基づき助成されるというものだった。月単位で計画届と支給申請を繰り返しながら、毎月人件費の負担を軽減してくれて、かつ返済も不要なため、会社にとっては非常に有難いものなのだ。

ただ、世間ではこのような制度を悪用するケースが後を絶たなかったようだ。計画届では休業させるとしておきながら、実際には働かせて、助成金だけはゲットしようとするケースが多かったようだ。切羽詰まった会社や悪知恵を働かそうとする会社というのは、リスクを冒してでも受給しようとするものなのだ。ただ、計画届通りに休業させているかどうかは、見に来られてしまえばほぼバレてしまうという意味においては、休業をさせた事にしておくのは余りにも浅墓なのだ。その点の心配は全くなかったのだが、勿論訪問理由を告げてくれるワケではなく、計画届や支給申請に関する書類の原本を確認させて欲しいというのが口実だった。

特に、出勤簿やタイムカードは、日々打刻するカードや手書きの出勤簿を元に、給与計算のためにEXCELシートなどに転記入力してキレイに仕上げたものが出来るため、それを支給申請時に提出するケースもあるのだ。そうなると、タイムカード原本では打刻があるのに、転記入力するEXCELシート側には記録されていないケースがあると、整合性がとれなくなり、休業を装っていたのではないかと指摘される事になるのだ。まさに、その会社ではタイムカードをEXCELに転記入力をしている会社だった。ただ、決して偽装などするはずもなかったので、どうぞ好きなだけ見て下さいという感じで、原本を一式お渡しし、自分は席を外して自由に見たいだけ見てもらう事にしたのだ。

過去に遡り、お二人で全てをチェックして下さったようだったが、30分ほど経過したところでようやくお呼びがかかったので席に戻った。すると、「いつも計画届や支給申請、添付書類をキッチリ整備と保管に努めて頂き有難うございます。特に指摘事項はございませんでした。お手間をかけました。」との事だった。内心ホッとしたもののそんな表情を見せたくはないので、当たり前の事として受け止めたそぶりで、「調査するのも大変ですね。」と労うとともに、「何か通報でもあったのですか?」と尋ねてみた。すると、「実は・・・」という事で、元社員からの通報があった事が判明したのだ。嫌がらせによるものだったのだ。社長は相当不安な様子だったが、何の問題もなく適正に処理されていることが証明されたと分かると、同じようにホッとされるとともに、こちらへの信用や信頼が一気に増した感じを受けた。これほどまでに不安が信頼に変わる瞬間は中々ないのではないかと思うぐらいの出来事だったが、これぞ国家資格者としての矜持、プライドを掛けた仕事なのだ。

By hb

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